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清浄な空気の作り方

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「その場に見合った空気ってあるだろ? 葬式には葬式の、合コンには合コンの、それっぽい空気ってもんがある。これを、お前のラストライブで試すんだよ。」

「え~、やだよ、最後なのにそんな変なもの試すの。」

「こいつの性能を試すのに、お前のライブは持ってこいなんだよ。頼むよ。これを使えば、きっとロックバンドのライブとして“正常”な空気になるはずだ。な、試してみようぜ? 最後に俺がお前をフレディにしてやんよ。」

「ハハッ、よく言うよ。」

半ば押し切られた形で、俺はその空気正常機とやらを最後のライブで試してみることになった。

 
前編はこちら↓
正常な空気を作る機械
https://www.rentalism.jp/note/431/

 

・・・・・

 
ライブ当日。
最近人気のある年下のバンドが俺たちのすぐ後に出演するので、それ目当てなのか観客は普段より多い。岡村はフロアの後ろの方で待機し、俺たちの出番がきたら、こっそり持ち込んだ空気正常機を取り出し、電源を入れるという寸法だ。

今日で最後。そう思うと、胸にくるものがある。空気正常機の効果がどれほどのものかはわからないが、こうなったら、悔いが残らないよう思い切りやるまでだ。

前のバンドが終わり、俺たちの出番だ。ステージの横で待機していると、皮膚がピリピリするのを感じた。なんだ、これは。次のバンドを待つ客のざわめき。それはいつも通りなのだが、空気が違う。張りつめている。緊張と興奮が混ざり合っている。もう空気正常機の効果が出ているのか?

ステージに上がると、観客の目がいつもと明らかに違った。俺を見ている。俺に注目している。こんな視線、今まで浴びたことがない。そして、最初の音を弾いた途端、張りつめていた空気が一気に弾け飛んだ。

こんな景色は初めてだった。人が波のように揺れている。なんて素晴らしい景色だろう。俺は天にも昇るような気持ちでギターを掻き鳴らし、世界の果てまで届ける気持ちで歌った。最高、最高、最高。

「盛り上がってるか~!?」

「イエエエエエエ!!」

「こんなもんじゃねえよな~!?」

「オオオオオオ!!」

「まだまだ足りねえぞ~!!」

「ワアアアアアア!!」

コール&レスポンスも完璧。これこれ、俺は、これがやりたかったんだ。

しかし、ふと頭に浮かんだ。
こうやって注目されて、こうやって盛り上がって、それさえできればよかったのか?
俺はそれが目的だったのか?
違う。人気とか空気とか、そういうことじゃなくて、自分の中から湧き上がるものを、湧き上がるままに表現したかった。そのために、今までやってきた。

正常なライブをやるために、俺はロックバンドをやってきたんじゃない。

俺はステージから飛び降りて、観客を掻き分け、最後列に立っている岡村のもとに向かった。周りがざわつく。

「なんだ!? どうした!?」

驚いて目をギョロギョロさせる岡村の足元には、この前の空気正常機。青色のランプが点灯し、作動しているのがわかる。
俺はそれをできる限り高い位置まで持ち上げ、大きく息を吸ってから、思い切りフロアの地面に叩きつけた。大きな音がして、白いボディの一部が弾けた。青色のランプも消えた。

「おいおいおい、何すんだよ!」

叫ぶ岡村をそのままにして、俺はステージに戻る。

「最後の曲です。聴いてください。」

俺はバンド人生最後の曲を全力で歌った。客はざわざわしていて、もう誰も聴いちゃいない。明らかに“異常”な空気だ。それでも俺は歌った。最後の最後まで、歌い続けた。

 

・・・・・

 
ライブ終了後、ライブハウスから出ると、岡村が立っていた。俺は駆け寄って頭を下げた。

「岡村、ごめん。お前がせっかく開発した機械、壊しちゃって。なんか俺、急にこれじゃダメだって思って、居ても立っていられなくなっちゃって……。本当に、ごめん。」

岡村はしばらく黙ったあと、ボソッと言った。

「どうだったよ?」

「どうだったって?」

「空気正常機の効果だよ。どうだった?」

「それは、もうすごい効果だったよ。完璧にロックバンドのライブの空気だった。会場が一体となってさ、まるでフレディになった気分だったよ!」

「そうかそうか。あのな、それはお前の実力だ。」

「は?」

「俺が持ってきたのは普通の空気清浄機! 何だよ、空気を正常にするって。そんなものあるわけないだろ?」

ニヤッと笑う岡村を見て、俺は全身の力が抜けた。

「くそ、騙したのかよ!」

「プラセボ効果ってやつだな。何の成分も入っていない薬を飲んだ患者が、効き目があると思い込むことによって症状が改善するっていうアレ。お前に足りなかったのは自信と思い切りだ。ちゃんと空気をつくれるんだよ、お前も。」

呆気に取られて、言葉が出ない。

「それにしても、ライブでギターを叩き壊すバンドマンは聞いたことあるけど、空気清浄機を叩き壊したヤツは史上初だと思うぜ? 才能あるよ、お前。もうちょっと続けたら?」

「いいんだよ。もうあのライブハウスも出禁になっちゃったし。床が傷付いたからって修理代請求されたよ。働かなきゃ。」

「そうか。じゃあ俺がいつか本当に空気正常機を発明したら、儲けた金でライブハウスを作ってやるよ。俺、お前の歌、結構好きだからさ。」

岡村が冗談で言っているのか本気なのかはわからないが、そんな未来があったらいいなとちょっと思ってしまった。自分の歌が好きだという人が一人でもいるなら、それは最高に幸せなことだ。

「しかしお前、破壊した空気清浄機も弁償しろよな。あれ普通にうちで使ってたやつなんだぞ!」

「マジかよ、すまん。とりあえず今日は奢るから、打ち上げ行こうぜ!」

「唐揚げを床に叩きつけるんじゃないだろうな。」

「そんなことしねえよ!」

俺たちは二人肩を並べて、居酒屋へと向かった。これからもずっとそうしていられそうな、俺たちの正常な空気で。

 
 
<完>
 
 

執筆者:ナガセローム(長瀬) Twitter note

=====
編集後記:
その場の空気感を作るのはやっぱり人。
その人だからこそ作れる雰囲気がある。その人とだからこそ作れる正常な空気がある。
得てしてそういった正常な空気は、無理して作る必要ってないんですよね。

一方、空気中の花粉やホコリは人の手ではどうしても清浄にできないもの。
無理をせず、機械に頼って、清浄キレイな空気づくり!

 
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https://www.roumu-p.com/purifier/

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