「そういう極悪非道な輩からサボテンを守るため、私は立ち上がりました。本当にサボテンを欲しいのか、育てられるのかを問う期間が必要だと確信し、レンタルサボテンを始めたのです、今日から。」
「今日から!?」
前編はこちら↓
レンタルサボテン 借りたい気持ち
https://www.rentalism.jp/note/481/
「今日からというか、ついさっき思いつきました。なので、お客さんが最初です。」
「え〜、じゃあもう少し早ければ普通に買えたんですか? タイミング悪いなあ。」
「まあそう言わずに。で、ものは相談なんですけど、レンタル料いくらがいいと思いますか?」
「まだシステムすら定まってないじゃないですか。」
「レンタルすることを諦めてしまわない程度に抑えつつ、サボテンを家に置くことへの覚悟と責任を実感できる価格設定にする必要があると思うんです。例えば、一週間レンタルするとしたら、いくらくらいが妥当でしょうか。」
「うーん、DVDのレンタルはだいたい一週間100円ですよ。」
「100円!?サボテンをバカにしてるんですか!?」
さっき生活に不必要とかノリで買うものとか散々言ってたのは誰なのか、と心の中で思った。
「よし、決めました。千円にします。」
「一週間で千円は高すぎません? それならやめておきます、他の店で買えばいいんですから。」
「お客さん、忘れたんですか? サボテンはノリで買うもの、あなたのサボテンションは今がピークです。他の店に行ってまでわざわざ買う可能性は極めて低い。」
「まあそう言われると確かにそんな気もしますけど……。でも千円は高いですよ。借りないです。」
僕が断ると、店員は少し考えたあと、「お客さん、好きな食べ物は?」と聞いてきた。
「なんですか、急に。」
「いいから、いいから。好きな食べ物は?」
「カレー、ですかね。今日もカレー作ろうと思っておたま買ったんですよ。」
「わかりました。では、もしあなたがこのサボテンを千円でレンタルし、それを一週間後返しにきてくれた暁には、この近所にあるとてもおいしいカレー屋さんでカレーを奢ります。」
「え? どういうことですか。」
「その店のカレーは900円です。すなわち、あなたは実質100円でサボテンをレンタルできるということになります。これならどうです?」
「いや、どうっていうか、なんでそこまでしてレンタルさせたいのか疑問です。」
しかしながら、おいしいカレー屋さんを教えてもらえて、さらに奢ってもらえるとなれば、まあ悪くない話のような気もする。
「わかりました。じゃあ、千円でレンタルしますよ。カレー、絶対ですからね!」
「もちろん、約束は守ります。サボテンに誓って。」
サボテンに誓われたところで信用できるかどうか不明だったが、僕はその店員に千円を支払い、サボテンをレンタルして帰ったのだった。
サボテンのある生活は、思った以上に僕を生き生きとさせた。朝、リビングのカーテンを開けると、窓際に置いたサボテンは朝日を浴びて、ほわほわと細かい棘を輝かせる。まるで一緒に目覚めたかのような気分で、「おはよう」と声をかけると、返事はなくとも不思議と元気が湧いてくる。仕事を終えて一人家に帰っても、サボテンがそこにあるだけで、なんだか心強い感じがした。
一週間経っても、僕のサボテンションは下がっていないようだった。どうやら僕は本気でサボテンを気に入ったらしい。
店に行くと、店員が僕を待っていたかのように店先に立っていた。僕はサボテンを手渡した。店員はそれを受け取り、「じゃあ行きましょうか」と僕を連れ出した。
店員が連れて行ってくれたカレー屋は小さなビルの3階にあり、ろくに看板も出ていなかった。そして、めちゃくちゃうまかった。
カレーを食べ終わったころ、僕は話を切り出した。
「一週間レンタルしてみて、本当に気に入りました。あのサボテンはもう僕にとってはおたまと同じ、生活に必要なものです。ちゃんと大事に育てるので、売ってください。」
店員は満面の笑みで、「売りません」と言った。僕はずっこけそうになった。
「そんな、なんでですか。」
「売りません。あのサボテンは、差し上げます。さっき、私にサボテンを返したときのあなたの顔を見たら、どんな風に一週間サボテンと過ごしたのかわかりますよ。あんなに寂しそうな顔……。本当にサボテンを好きになってくれたんですね。こんなに嬉しいことはありません。だから、あれは差し上げます。友情のしるしです。」
それからというもの、僕はしょっちゅう店に行き、店員とサボテンの話で盛り上がったり、一緒に近所のカレー屋をめぐったり、僕の家に呼んでカレーをご馳走したりと、すっかり仲良くなった。あのサボテンのおかげで、充実した毎日を送れている。まさにお値段以上だ。
近所にニトリがあること、そして近所に友達がいることは、生活が楽しくなるアドバンテージである。
<完>
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編集後記:
大好きなものの良さを、たくさんの人に知ってもらいたい。
大好きだからこそ、大切にしてもらえる人を選んで託したい。
物も、人も、大切にしたい。
そんな気持ちの繋がりが、笑顔を生み出すのかもしれません。
レンタルのロームはこちら
https://www.roumu-p.com/