怪我の多い生涯を送ってきました。
鈍臭いとかドジだとか、そういうことではないのです。小さい頃から、運動神経は決して悪い方ではありませんでした。サッカー、野球、バスケなど、大抵のスポーツは何でもそつなくこなせるだけの能力があったと自負しています。しかし、サッカーではゴールポストに激突し鎖骨を骨折、野球ではチームメイトと交錯し腕を骨折、バスケでは顔面にボールが直撃して鼻を骨折しました。
「骨折王」の異名を引っ提げ入学した中学校では、怪我をしたくない一心で吹奏楽部に入部しました。しかし、僕はそこでも骨折します。ティンパニーを誤って足の上に落下させてしまったのです。人差し指がポッキリ折れました。
さすがに心配になった両親は僕をお祓いに連れて行きましたが、白いヒラヒラのついた棒をバサバサされている最中、段差を踏み外した神主がすっ転び、正座している僕の上に盛大に尻餅をつきました。もう神にでさえ頼れないのだと悟った瞬間でした。
大人になった今も、僕の身にはしょっちゅう不運が降りかかります。
街や駅で急いでいる人に激突されるのは日常茶飯事、散歩をすれば近所の子どもが投げたボールやら靴やらが顔面めがけて飛んできます。路上で喧嘩している人が揉み合いの末吹っ飛んできて僕もついでに吹っ飛ばされりします。激突系アンラッキーの申し子、それが僕というわけです。
そんな人生なので、恋愛も困難です。先日、好きな女の子とデートに漕ぎつけました。温子ちゃんという、明るくてハキハキした子です。しっかり者で、ちょっとやそっとでは動じないその堂々とした態度が、いつもビクビクしながら生きる僕には眩しく映りました。
温子ちゃんはいつも周囲をキョロキョロ見回している僕のことを面白がって、「お化け屋敷に行こうよ」と言いました。で、二人で遊園地のお化け屋敷に入ったのですが、そのクライマックス、白装束の髪の長い女が物陰から両手を振り上げて勢いよく飛び出した際、僕の立ち位置が悪かったのか、女の拳が僕の顎にクリーンヒットし、僕は「うぐっ」と情けない声をあげて後ろにひっくり返りました。お化けが怖くてぶっ倒れる人はいても、お化けに殴られてぶっ倒れた人など聞いたことがありません。温子ちゃんは大笑いしていましたが、僕は心底恥ずかしかったです。
霊体にまで打撃を食らうとはよっぽどです。僕は改めて自分に絶望しました。どうしたものかと天を仰ぎながら歩いていると、ふと、古いビルの二階にある看板が目に飛び込んできました。看板には、『レンタルお守り〜あなたのお悩みお聞かせください〜』と書いてあります。僕は吸い寄せらせるように、そのビルの階段を上り、店のドアを開けました。正面に、おじいさんが一人、座っています。
「いらっしゃいませ。どんなお守りをご所望ですか？」
僕に向かっておじいさんが微笑みます。背後には壁一面にお守りが飾られており、怪しげな雰囲気を醸し出していました。
「健康運、恋愛運、金運、合格祈願。なんでも揃っていますよ。うちにあるのは普通では手に入らない、強力なお守りばかりです。あまりに強力なので、販売ではなくレンタルにしているんです。運はみんなで分け合わなきゃね。」
強力なお守り。霊に殴られて傷心の身である僕にはとても魅力的な響きです。気付けば僕は、これまでの人生について洗いざらい打ち明けていました。おじいさんは僕の話に真剣に耳を傾けてくれました。
「なるほど、よくわかりました。そんなあなたに是非おすすめしたいお守りがあります。」
そう言っておじいさんは店の奥から一つのお守りを取り出しました。
「交通安全……。」
それは何の変哲も無い、ただの交通安全のお守りでした。ものすごいお守りが出てくることを期待していたので、正直、拍子抜けです。
僕の反応から察したのでしょう。おじいさんはぐっと身を乗り出して、「ただの交通安全のお守りではありませんよ。」と言いました。僕はごくりと唾を飲みました。おじいさんは真剣な表情で、ゆっくりと口を開きます。
「これは、武田鉄矢がトラックの前に飛び出したときに持っていたお守りです。」
「……はい？」
「だから、武田鉄矢がトラックの前に飛び出したときに持っていたお守りですよ。あ、もしかして、『101回目のプロポーズ』を知らない？」
「知ってますよ。ドラマですよね。」
「そうです。トラックの前に飛び出して無事だった人間なんてなかなかいませんからね。このお守りには強力な運が宿っていますよ。」
「いや、でもそれドラマの話……。」
「とにかく、騙されたと思って、持ち歩いてみてくださいな。このお守りはすごいです。今までレンタルした人、みんな効果を絶賛していましたよ。間違いなくおすすめできます。さあ、さあ。」
僕はおじいさんのゴリ押しに負け、その交通安全のお守りをレンタルすることになってしまいました。
後編はこちら↓
お守りの効能 ～災い転じて福となす～
https://www.rentalism.jp/note/556/
レンタルのロームはこちら
https://www.roumu-p.com/
