レンタルのローム のノート

ビジネスシーン、教育・保育現場、高齢者福祉の現場でお役に立ちまくっている、レンタルのロームのノートです。

Home » レンタルのある日常 » お守りの効能 ~災い転じて福となす~

お守りの効能 ~災い転じて福となす~

calendar

「とにかく、騙されたと思って、持ち歩いてみてくださいな。このお守りはすごいです。今までレンタルした人、みんな効果を絶賛していましたよ。間違いなくおすすめできます。さあ、さあ。」

僕はおじいさんのゴリ押しに負け、その交通安全のお守りをレンタルすることになってしまいました。

 
前編はこちら
お守りの効能 ~骨折王の憂鬱~
https://www.rentalism.jp/note/551/

 

 
店を出て、僕は深くため息をつきました。未だかつて、こんなにも騙されたと思ったことはありません。こういうときにきっぱり断れないのも、僕のダメなところです。「このバカチンが!」と今更自分を叱りつけたところで、どうしようもありません。仕方がないので、普通の交通安全のお守りだと思うことにして、一応ポケットに入れて持ち歩くことにしました。

しかし、僕はその効果をすぐに実感することになります。

お守りを持ち歩くようになってからというもの、人とぶつかることが一切なくなったのです。驚きました。駅などを歩いていると、僕の前にいる人々が、不自然なくらい次々と鮮やかに僕を避けていくのです。大勢の人が行き交うスクランブル交差点でも、まるでモーセの海割りの如く、人混みの中に僕のゆく道ができるのです。曲がり角で自転車と衝突しそうになったときには、目の前で自転車がウィリーし、そのまま一回転、別方向へと走り去っていきました。自転車に乗っていた人は何度もこちらを振り返り、不思議そうに首をかしげていました。

お守りのおかげで、僕はもうビクビクしなくなりました。堂々と、何も怖がらずに道を歩ける。それがこんなにも素晴らしいことだなんて。

 
恋愛もよい方向に進んでいます。温子ちゃんとのデートでも人混みを恐れることはありません。今までは周囲を気にして会話に集中できませんでしたが、人が押しかける人気スポットでもみんな僕たち(というか僕)を避けてくれるので、会話を楽しむ余裕ができました。二人で野球観戦に行ったときなんて、僕めがけて飛んできたファールボールが直前で軌道を変え、ホームランになりました。応援しているチームが勝ったおかげで、温子ちゃんは大喜びでした。

いい雰囲気だと確信した僕は、温子ちゃんに告白しようと決めました。お守りのおかげで、僕の中に余裕と自信が生まれたのです。

 

その日、僕と温子ちゃんは一緒に夕食を食べたあと、公園のベンチに座ってしばらくお喋りに興じました。今しかない。僕は意を決して、「お話があります」と切り出しました。温子ちゃんは「はい」と答えて僕の目をじっと見つめます。

「す、す、す……。」

温子ちゃんに見つめられているせいでしょうか、緊張が押し寄せ、言葉がうまく出ません。そんな僕を見て温子ちゃんはふっと笑い、僕の肩にそっと触れました。そしてなんと、温子ちゃんの顔が近づいてくるではありませんか。

僕が驚いてぎゅっと目を閉じた、そのときでした。「うわあっ」と温子ちゃんの叫び声が聞こえて、慌てて目を開けると、温子ちゃんがベンチから落っこちて尻餅をついていました。

「ちょっと、何すんの!」

「だ、大丈夫!?」

助けようと手を伸ばしましたが、温子ちゃんはその手を払いのけます。

「嫌なら嫌って言えばいいじゃん! 突き飛ばすなんて!」

「誤解だよ! 僕は何も……。」

そう言いながら、ハッとお守りのことが頭をよぎりました。まさか……。

考えている間に、温子ちゃんは自ら立ち上がり、そのまま道路の方へと走って行ってしまいました。

ポケットに手を入れ、例のお守りを取り出してみます。このお守りの力で、僕にキスしようとした温子ちゃんが吹っ飛んでしまった、そうとしか考えられません。なんということでしょう。街灯に照らされ、浮かび上がる「交通安全」の文字。温子ちゃんからのキスは、僕にとって交通事故並みに衝撃的な出来事だったということなのでしょう……なんて言っている場合ではありません。追いかけなくては。

 
「温子ちゃん、待って!」

 
僕は公園を飛び出しました。辺りを見回すと、温子ちゃんはちょうど信号を渡り終えたところでした。道路の向こう側をすたすた歩いていくその背中に向かって、僕は一目散に走り出し、道路を横断しようとした、そのときでした。ライトが僕を真っ白く照らし、クラクションが鳴り響き、トラックが急停車して、運転手が「何やってんだバカヤロー!」と怒鳴りました。僕は驚いて立ち尽くすばかりです。

「大丈夫!?」

温子ちゃんが慌てて駆け寄ってきます。今にも泣き出しそうな表情。こんなときなのに、僕はその表情も綺麗だな、と思いました。

「僕は死にません。あなたが好きだから。」

無意識にそう口に出していました。温子ちゃんはブッと噴き出し、ちょっと照れくさそうに、「武田鉄矢か!」と突っ込みながら僕の肩を叩こうとしたのですが、その手は不自然な軌道で空を切り、勢い余って転びそうになった温子ちゃんを、僕は両手で受け止めました。温子ちゃんは「あ、ありがとう……。」と言いながら、自分の手を見て首をかしげています。

自分の右手を開くと、そこには交通安全のお守りが強く強く握られていました。このお守りは、もう返却しようと思います。僕の安全より、大切な人ができたからです。

 
 
<完>
 
 

執筆者:ナガセローム(長瀬) Twitter note

=====
編集後記:
手の中にあるものが、良い状況を作ってくれるのではない。
手の中にあるもので、良い状況を作り出すのだ! という気持ちにしてくれます。

そのきっかけの一つに、レンタルサービスの存在があるといいな。

 
レンタルのロームはこちら
https://www.roumu-p.com/

folder チョコレートファウンテン

チョコレートを食べる、仕事でね。
more...