レンタルのローム のノート

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透明な潤い

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次の日の朝も、サボることなく葛西さんは加湿器に水を入れていた。

私はサーブを打ち込みながら考えた。入学式の日、葛西さんは勇気を出して私に話しかけてくれたのに、私は自らの怠慢でその勇気を無碍にした。あのあと、私から葛西さんに話しかけていたら、普通に友達になれていたのだろうか。学校帰り一緒にミスドへ行ったり、町名と名前だけ書いた年賀状を送ったりしたのだろうか。「あくびしてんなよー」なんて先生の物真似をしながら肩を叩いたりできたのだろうか。

 
前編はこちら
乾燥ともやもや
https://www.rentalism.jp/note/574/

 

 
気づけばもう3月だった。
葛西さんが加湿器に水を補充しはじめて、もうすぐ一年が経つ。暖房による乾燥が気にならなかったのも、クラスの誰もインフルエンザに罹らなかったのも、葛西さんのおかげなのに、やっぱり誰も気づいていない。軽音部でボーカルをやっているあいつの喉も、最近韓国風メイクに凝っているあの子の肌も、葛西さんが潤しているのに。

もやもやする。でも、知っているのに知らないふりをしている自分に、一番もやもやする。

2年生になって葛西さんと別のクラスになったら、きっとこのもやもやから解放されるに違いない。でもそれでいいのだろうか。このままでは、気化式加湿器の蒸気が透明なように、葛西さんを透明にしたまま、私は高校一年生を終えることになる。

 
終業式の日。朝練はなかったが、私はいつも通りの時間に登校した。自転車を停め、いつもの脇道ではなく、生徒玄関へと向かう。上靴に履き替えて廊下を曲がると、水飲み場で加湿器のタンクに水を入れる葛西さんが見えた。

蛇口から勢いよく出る水の音が、私の足音を消す。このまま葛西さんの背中を通り過ぎることもできる。でも、私は立ち止まった。あの日、緊張しながら私に話しかけてくれた葛西さんの顔が浮かんだ。

「葛西さん。」

声をかけたが、水の音でかき消された。もう一度、今度は腹に力を入れる。

「葛西さん!」

葛西さんがびくっとして振り返り、目を見開く。葛西さんの顔を正面から見るのは初めてだった。遠くから見ていたのでは全然わからなかった。こんなにも、黒目が大きい。

「あのさ、いつも加湿器の水、ありがとう。」

私がそう言うと、葛西さんはゆっくりと、ほんの少しだけ微笑んだ。

「どういたしまして。」

それは思った以上に、はっきりした口調だった。余計な謙遜などなかった。もしかすると、葛西さんは誰かがそう言ってくれているのをずっと待っていたのかもしれない。

ゴポポポと音がしてタンクから水が盛大に溢れ、葛西さんがワアッと声をあげながら慌てて水を止めた。私たちは顔を見合わせて笑った。

 
 
2年生になって、私と葛西さんはまた同じクラスになった。葛西さんは相変わらず、毎朝加湿器の水を補充している。私も相変わらず、30分早く朝練に行っている。変わったのは、教室に鞄を置いてから朝練に行くこと。

「葛西さん、おはよう。」

「おはよう。朝練頑張って。」

「うん。行ってくる!」

今日も一日、教室は潤いに満ちている。

 

 
 
<完>
 
 

執筆者:ナガセローム(長瀬) Twitter note

=====
編集後記:
乾燥した空気は、お肌にも喉にも、それから人との関係にも、良い影響を与えない。摩擦レスな潤いが、心まで瑞々しくしてくれる。

今日もタンクに水をたっぷり入れましょう。

 
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