昔々、というほど昔ではないちょっとだけ昔。あるところに、おじいさんが一人で暮らしていました。
おじいさんはおばあさんを亡くしてから、縁側でぼんやり庭を眺めるだけの、ただ穏やかで、ただ寂しい日々を送っていました。唯一、心の支えとなっていたのは、おばあさんが好きだった広い庭。この庭を手入れすることだけが、おじいさんの心の支えとなっていました。
おばあさんは生垣を特に気に入っていました。おじいさんがヘッジトリマーで生垣を剪定すると、おばあさんは「とても上手ね」と、いつも褒めてくれました。そんな思い入れのある生垣なので、おばあさんが亡くなったあとも、おじいさんはこまめに、そして、念入りに、生垣を整え続けていました。
ある日、おじいさんが生垣を刈っていると、ヘッジトリマーの機械音に紛れて、どこからかミイミイとか細い声が聞こえました。なんだろう、と思いながら刈り続けていると、生垣の下から突然、小さな子猫が飛び出してきました。子猫は庭を突っ切って、縁側の下へ。おじいさんが覗き込むと、子猫は鳴きながら震えています。
「機械の音に驚いたのか? もう大丈夫だから、こっちにおいで。」
そんなふうにして、おじいさんと猫は一緒に暮らしはじめました。
おじいさんは猫をミイと名づけました。ミイミイという鳴き声がとても可愛かったからです。真っ白な毛並みのミイですが、左の前足には茶色くてまあるい模様がありました。それを見たとき、おじいさんはとても驚きました。亡くなったおばあさんの左腕にも、生まれつきまあるい痣があったからです。ミイはおばあさんの生まれ変わりなのだと、おじいさんは思いました。
小さな子猫だったミイは、大きくなるにつれ、どんどんおてんばになっていきました。ヘッジトリマーの音を怖がっていたのが嘘のよう。元気いっぱい、イタズラばかり。おじいさんはミイの世話に悪戦苦闘の毎日でした。大変でしたが、それはとても賑やかで、楽しい日々でした。
ずっと一緒だったおじいさんとミイですが、10年以上の月日が流れ、年老いたミイは、おじいさんの膝の上でゆっくりと息を引き取りました。おじいさんの心には、またぽっかりと大きな穴が空いてしまいました。
おじいさんは、おばあさんの仏壇に手を合わせて言いました。
「もう猫に生まれ変わるのはよしてくれ。」
ミイとの別れがつらくて、寂しくて、おじいさんはつい、そんなことをつい言ってしまったのです。
しばらく落ち込んでいたおじいさんですが、このままではいけないと思い、庭の手入れを再開しました。ヘッジトリマーで生垣を剪定していると、ここからミイが飛び出してきたのが、まるで昨日のことのように思い出されます。涙が溢れてきて、おじいさんの瞳から一粒の涙がぽろりと落ちた、そのときでした。生垣の中から、何かが勢いよく飛び出してきたのです。
「ばうん! ばうん!」
ゴールデンレトリバーです。
ゴールデンレトリバーが、広い庭をぐるぐるぴょんぴょん駆け回っています。おじいさんは呆然としてしまいました。小さな子猫ならまだしも、大型犬が生垣から飛び出してくるなんて、そんなことが果たしてありえるでしょうか。生垣を確かめてみますが、大きな穴などは空いていません。
とにかくこのままにはしておけないと思い、おじいさんは物置にあったローブを取り出して、ゴールデンレトリバーを追いかけました。しかし、全力で駆け回る大型犬を捕まえるのはとても難しく、結局、ゴールデンレトリバーが走ることに飽きるまで三時間も追い回すことになってしまいました。どうにかロープを首輪代わりにして、家の柱にくくりつけます。そこでおじいさんはやっと気がつきました。ゴールデンレトリバーの左の前足に、まあるい模様があるではありませんか。
翌朝、おじいさんが目覚めると、くくりつけたロープはそのままで、ゴールデンレトリバーの姿は跡形もなく消えていました。
後編はこちら↓
飛び出す生垣 思い出は姿を変えて
https://www.rentalism.jp/note/755/
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