俺は夢中になって宇宙船を動かした。めちゃくちゃスピード出る。だって、5秒で北海道に着いた。すごいすごい、すごすぎる。せっかく北海道に来たからラーメンでも食べようと思ったんだけど、そういえば降り方がわからない。で、説明書を見たら、「レンタル中は宇宙船から降りられません」って書いてあるの。それはもうがっくりきたよね。上からちょっと景色みて帰ってきた。5秒で。
前編はこちら↓
宇宙船で出来ること 宇宙規模のレンタル
https://www.rentalism.jp/note/777/
あと、吸い込むのもさ、やってみたいけど何でも吸い込むわけにいかないじゃん。人とか吸い込んだら普通に迷惑じゃん。びっくりさせちゃうし。俺は結構そういうの気にするタイプよ。動物はどうかな。なんかUFOって牛とか吸い込んでるイメージあるし、って思ったけど、牛も牧場の人が迷惑するからダメだな。吸い込んでいいもの、意外とない。
とか考えてたら、真下の大きい道路に、何か見えた。それは猫。猫が道路を横切ろうとしていて、めちゃくちゃ危ないの。トラックとかビュンビュン走ってる道路だから、やめとけやめとけってハラハラしながら見てたんだけど、ついに渡りはじめちゃったわけ。で、俺は思わず赤いボタンを押した。そしたら猫が宙に浮いて、宇宙船の中に吸い込まれた。
俺に助けられたことをわかってるのかな、猫はすぐ俺に懐いた。ニャーニャー鳴きながら近くをうろちょろしたり、膝の上にのったりしてくる。
猫を助けられたのはよかったけど、相変わらず俺は宇宙船を持て余し気味。さっき、すごいことに気付いたのよ。俺も宇宙に遊びに行けばいいじゃん! って。そしたらさ、それも説明書に書いてあったの。「レンタルの方はその惑星から出ることはできません」って。マジかよ。つまり、俺がこの宇宙船で出来ることは、高速移動と吸い込みだけってこと? よく考えたら、宇宙に行けない宇宙船って何。ちょっと騙された気分だわ。
でも、今日一日、まだ時間はたっぷりある。猫が擦り寄ってきて可愛い。頭をなでてやると、ゴロゴロ言ってさらに可愛い。
助けた猫をなでながら、俺は思ったわけ。この宇宙船で誰かの役に立てないかなって。なんかイイコトしよっかなって。で、ピーンときたのよ。イイコトといえば、ごみ拾いっしょ!
俺は、街から街へ移動して、落ちているごみをどんどん吸い込んでいった。ごみが宇宙船にたまっていくと、なんか面白くなってきてさ、ごみを求めてあちこち移動した。海とか山とか、結構ごみが落ちてるんだよな。夢中で吸い込んで、吸い込んで、吸い込んで、夜になるまで続けたわけ。そしたらもう、宇宙船がごみでパンパン。
そろそろ宇宙人たちが帰ってくるって頃になって、ハッとしたね。宇宙船ごみだらけにしたの、さすがにヤバくない? 怒られない? って。
「ただいま戻りました!」
「おお、おかえり! どうだったよ、地球は。どこ行ったの?」
「富士急ハイランドに行ってきました。」
「富士急!? なんでまた。」
「楽しかったですよ、ジェットコースター! 自らの身体を危険に晒すことにより興奮を得ようだなんて生存本能の真逆をいく発想を持つ星人はあなた方くらいなものです! 面白すぎます! ポポポ!」
褒められているのかよくわからんが、楽しかったなら良かった。で、問題はごみだな。
「ちなみに、なんですか、これは。」
宇宙人が、ごみの山を指さす。
「ごめん、それ実は……。」
「もしかして、お土産!? これお土産ですか!?」
「うわあ、こんなにたくさんありがとうございます。友達へのばらまき土産にぴったりだ!」
宇宙人たちは空き缶やお菓子の袋、機械の部品や破片なんかを手に取って大はしゃぎしている。
「そうそう、お土産! 持って行ってよ!」
ラッキー、まさか気に入ってくれるとは。これって宇宙規模のサステナブルじゃね?
「私たちからも最後に、プレゼントがあります。」
「これをどうぞ。」
宇宙人から手渡されたのは、丸くて透明な玉。なんだこれ。わからんけどきれいだ。そう思ってじっと見てたらさ、玉が急にピカーっと光り出したんだよ。その光の向こう側で、宇宙人たちがペコリと頭を下げてる。
「ありがとう、さようなら。」
気付いたら、朝だった。いつも通りの朝。相変わらず母ちゃんはガミガミうるさくてさ、俺はまだ眠い目こすって、無理矢理朝メシを食う。足下で猫がゴロゴロ言ってる。
「まったく、就職もしないでタラタラタラタラ。そのくせ猫まで拾ってきて。自分でちゃんと世話しなさいよ。」
テレビでは朝のニュースが流れている。近くの海岸や山中のごみが一日にしてきれいさっぱりなくなっていたというニュース。アナウンサーが言う。
「本当に不思議ですね。何かの魔法か、もしくは宇宙人の仕業としか思えません。」
「宇宙人なわけないじゃない。ばかなこと言って。徳の高い人が片付けてくれたに違いないよ。なんて素晴らしい。あんたにも見習ってほしいもんだわ。」
「うるさいなあ。」
とはいえ、猫のエサ代も稼がないといけないしな。今日という今日は、ハローワークにでも行ってみるか。昨日も何もせず過ごしてしまったから、今日こそは。
あれ、昨日は俺、なにしてたんだっけ。
猫がニャーと鳴いて、膝の上にのってきた。この猫も、どこで拾ったんだっけ。猫の首元で、首輪についた透明の玉がキラッと光った。
<完>
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編集後記:
宇宙を巻き込んだサステイナブル・レンタル。
物を借りるという行為そのものがすでにエコなうえ、地球人にとっては価値のないものが、異星人にとっては珍しく貴重なもので持ち帰ってもらえたら、お互いにwin-winですね。何度でも地球に来てほしくなってしまいそうです。
不思議はいつでも、あなたのすぐそばに☆彡
レンタルのロームはこちら
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