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レンタル家来と鬼退治 桃二郎、旅に出る

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昔々、あるところに住んでいたおじいさんとおばあさんの元に流れ着いた桃から生まれた桃太郎なる青年が鬼退治で武功をあげたちまち英雄となったそうだが、そのあるところというのが、桃二郎が住んでいるこの村である。

 
桃二郎は、桃から生まれていない。鉄道会社に勤める父親と専業主婦の母親の元に哺乳類として極めて一般的な段取りで誕生した普通の青年である。桃太郎の親戚というわけでもない。桃二郎という名前も本名ではない。15歳になった日に自ら勝手に名乗り始めたもので、本当は二郎である。

桃太郎が鬼を退治したあと、村は桃太郎バブルに湧いた。観光客が多数訪れ、桃太郎カフェや桃太郎BARが人気を博し、各種グッズが飛ぶように売れた。桃太郎博物館などの大型施設も建設され、村は富と栄光の一時代を築いた。しかし、輝かしい繁栄は同時にまた悪も引き寄せた。近年は新たなる鬼による窃盗、器物損壊、暴走行為、振り込め詐欺などの犯罪が横行。桃太郎ブームの終焉とともに、人口は急激に減少。通りはシャッター街と化し、治安は悪化する一方だった。

村人たちは鬼に対抗すべく、英雄の再来を求めた。シフトを組んで朝から晩まで川を見張り、洗濯に励んだ。しかし、どれだけ待っても大きな桃は流れてこない。できれば例のおばあさんに桃を発見するコツなど教えてもらいたいところだが、あいにくおじいさんとおばあさんは桃太郎の保護者として得た巨万の富を使って500年のコールドスリープに入っており話を聞くことは今や不可能である。

そんな村のピンチに、桃二郎は立ち上がった。

桃二郎は、村で語り継がれてきた英雄・桃太郎に幼少期より強く憧れ、深く心酔していた。だからこそ、村のピンチを見過ごせない。桃太郎の後を継ぎ、鬼ヶ島に鬼退治に行く。そう決意した。この日のために、学業を捨て、就職を放棄し、夜遅くまでオンラインバトルゲームに励んできたのだ。鬼を倒すためのシミュレーションはバッチリである。

 
出発の朝、母親が桃二郎に持たせてくれたのは、チョコレートマフィンだった。

 

「ちょっと、なんできびだんごじゃないの!?」

桃二郎が文句を言うと、母親は「だって、きびだんごなんて作ったことないし」と肩をすくめた。確かに桃二郎もきびだんごを食べたことはない。

仕方なく、桃二郎は好物のチョコレートマフィンを携えて、鬼退治へと出発した。

鬼退治にあたり、最も重要なことは何か。それは、家来である。犬、猿、キジの3匹の家来こそ、鬼退治の要。桃二郎は、鬼ヶ島へ向かう道中、ある店に立ち寄った。

 
「レンタル家来 OTOMO」

 
古びた山小屋のような建物の扉を開けると、初老の店主が「いらっしゃい」とこちらに笑みを向けた。

この店主もかつて桃太郎バブルに乗っかり財を成した一人だ。桃太郎ふれあい牧場を経営し、観光客に桃太郎印のエサを一袋1000円で販売し大儲けしたそうだが、牧場を閉鎖した今は広大な土地を売却し、こうして細々とレンタル家来の店を営んでいる。

「あの、桃太郎の家来をお願いします。」

「桃太郎の家来ですか。すみませんねえ。犬、猿、キジは貸し出し中です。」

店主は書類をペラペラめくりながら申し訳なさそうに答えた。

「ええ〜そんな。なんとかなりませんか? これから鬼退治に行くんです。」

「ほう、鬼退治ですか。それなら他にも戦力になるいい家来がいますよ。」

「いやでも、鬼退治といえばやっぱり犬、猿、キジが……。」

桃二郎がうだうだ言うと、店主は急に眉間をギュッと絞った。

「お客さん、あなたは鬼を退治したいのか、それとも桃太郎のコスプレがしたいのか、どちらですか?」

妙に本質を突いた問いである。桃二郎は「鬼を退治したいです」と答えるほかなかった。店主はまた穏やかな表情に戻った。

「うむ、よろしい。では、私のおすすめをぜひお連れください。まずは、熊ですね。」

「熊! いいじゃないですか、熊! 絶対強い。」

「おっしゃる通り、最強の動物と言っても過言ではないでしょう。さらに、うちで貸し出している熊は大変従順です。決して暴走することなく、あなたの後ろを歩き、あなたの命令に従うでしょう。」

「それはありがたい。獰猛すぎると手に追えない。」

「じゃあ、熊は決定っと。で、お次なんですが、鶴はいかがですか。」

「鶴ですか。あんまり強そうには思えませんが。」

「お客さん、考えてみてくださいよ。桃太郎のキジだって、飛んでいって鬼の目を突いただけですからね。別に鳥ならなんでもいいんですよ。」

「まあ、そうと言えばそうですけど。」

「鶴はキジの上位互換と言えます。大きくて優雅で、連れて歩けばワンランク上のラグジュアリーな鬼退治を演出できますよ。うちの鶴はちょっと恥ずかしがり屋ですがね、そこもミステリアスで魅力的との口コミを頂いてます。」

「そうですか。わかりました。鶴もお願いします。」

「はい、毎度あり。最後なんですが、カニはどうでしょう。」

「カニ……? カニはちょっと……。」

「いやいや、お客さん。うちのカニは本当におすすめ。なんなら一番おすすめ。普通のカニじゃないですから。頼りになる奴ですよ。」

「カニが頼りになるって、そんなことありえます?」

「このカニが内に秘めたる怒り、悲しみ、妬み嫉み。その荒ぶる復讐心こそが、不思議な力の源なのです。きっとあなたの役に立ちます。騙されたと思って家来にしてやってください。」

全く理解できない桃二郎であったが、正直、熊さえいれば戦力としては十分である。

「そこまで言われちゃあね。わかった、カニも連れて行きます。」

「よっ、桃二郎、日本一!」

こうして桃二郎は、熊、鶴、カニをレンタルした。

 

 
 
後編はこちら↓
レンタル家来と鬼退治 太郎と二郎の新しい道
https://www.rentalism.jp/note/868/

 
レンタルのロームはこちら
https://www.roumu-p.com/

 

執筆者:ナガセローム(長瀬) Twitter note

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