高齢者である純増じいさん（81歳）が、足腰のトレーニングに、と足だけのエアロバイクを漕ぐのが日課だ。
その日は皆既月食の日だった。朝食を済ませ、ひとしきりの用事を済ませたのち、いつものようにエアロバイクを漕いでいたところ、何故だかいつもとは違う感覚に襲われた。その感覚はまるで、エアロバイクが実際の自転車のように風を切って進んでいるかのようだった。彼は驚きながらも、それが妄想かもしれないと思いながらもペダルを踏み続けた。
すると、部屋の風景が霞み、風の感触が強くなり、耳には自転車が道路を進む音が聞こえてきた。驚きと共に彼は足を止めたが、すでに彼のまわりは昭和の風景に変わっていた。幼い頃に育った街並み、なつかしい昭和の風景が広がっていた。
彼は、自分がタイムスリップしたことを理解した。しかし、そこには恐怖よりも、過去への郷愁と喜びが満ちていた。周囲を見渡すと、幼い頃の友達が野球をしていたり、母が昔の家で洗濯をしていたりする。この瞬間、彼は若い日の自分に戻ったような感覚を味わった。
しかし、その感動もつかの間、彼はエアロバイクが未来への扉でもあることを理解した。彼は、エアロバイクをこぐと自分の身体がタイムスリップするのだと結論づけた。しかし、それがどうして可能なのか、どの程度過去や未来に行けるのか、まだ全くわからなかった。
試しに、エアロバイクを再度こいでみると、また風景が変わり始めた。今度は、未来の風景が広がっていた。彼が知らない未来のテクノロジーが溢れており、街の景色は近未来のものとなっていた。
そこで彼は新たな使命を感じた。過去と未来を行き来する自分が、時間を超えた何か重要な役割を果たすべきだと。しかしその一方で、81歳の彼が持つパワーは有限だ。エアロバイクを漕ぎ続けることが、時間を超える唯一の方法だった。
彼の前には二つの選択肢があった。過去へ戻り、若い頃の自分や愛する人
々との再会を喜ぶか。それとも未来へ進み、知らない世界を探求するか。あるいは、現在に戻ることも可能だった。
しかし、彼はこの新たな能力についてまだ多くを理解していなかった。どの選択をすべきか、自問自答の日々が続く。この新たな事象について学び、理解し、そして何が最善の選択であるかを決定するために、時間をかけることを決めた。過去も未来も現在も全てが彼の手の中にあった。
純増じいさんの奇妙なタイムスリップの冒険が始まったばかりだ。彼がどの道を選ぶのか、それは彼自身の心の中にしか答えはない。エアロバイクと共に時間を超える旅が、これから始まる。
純増じいさんは、過去へ行くことで時間を越えた自分の役割を思いついた。それは、過去で自分が知っていることを現代に伝えるというシンプルなものだった。しかし、それと同時に、未来にも行くべきだという気持ちが強くなっていた。未来には彼がまだ知らない新たな知識や経験が待っていることを彼は知っていた。
未来への興奮と期待が彼の心を満たす。エアロバイクを漕ぎ始めると、彼の周りの風景は一瞬で変わった。現代の家や道路が光を放つ建物や浮遊する車に変わった。街の空は飛行機ではなく、飛行車で満ちていた。未来のテクノロジーに囲まれ、彼は驚きと興奮で息を呑んだ。
未来の街で彼が最初に目にしたのは、子供たちが遊んでいる公園だった。彼らは、触れると色が変わる草を蹴飛ばしながら、楽しそうに遊んでいた。また、彼らの服は、感情に合わせて色や形を変える未来の素材で作られていた。
純増じいさんは、現代の知識と経験で未来を理解しようと試みた。未来の技術や文化、社会を学びながら、彼は自分の理解を深めていく。未来の子供たちは彼を見て、初めは驚きつつもすぐに友達として接してくれた。
そこで彼は新たな使命を感じた。未来から得た知識を現代に持ち帰り、それを人々に伝えること。過去の経験と未来の知識を結びつけて、現代の問題を解決するための新たなアイデアを生み出すこと。そのために、彼は未来の生活を学び、新しいテクノロジーを理解し、未来の人々と交流する日々を過ごした。
しかし、彼はある重要なことを忘れていた。時間を超える能力はエアロバイクを漕ぐ力に依存していた。81歳の彼の体力は
限られている。彼がこれ以上時間を超える旅を続けることができるかどうかは、彼自身の体力と意志にかかっていた。
もうこれ以上漕ぐことはできない、つまり、時空を行き来できない。純増じいさんは息を切らしながらエアロバイクから降りた。体力が尽き、これ以上時空を超える力はないと彼は理解していた。しかし彼の表情には、完成度に満ちていた。
彼がこれまでの旅で学んだこと、過去の愛と現代への責任、そして未来から得た新しい視点は彼の内側で共鳴し、彼の心と知識を豊かにした。体力は尽きたかもしれないが、彼の心と精神はこれまで以上に強く、満たされていた。
純増じいさんは、未来の知識と経験を現代に持ち帰り、それを人々に伝えることを決意した。彼が体験した過去と未来の世界から得た洞察を活かして、現代の社会をより良くすることが彼の使命だと感じていた。
彼は皆既月食の日、自分がタイムスリップを初めて体験した日に、現代に戻ることを選んだ。もう一度だけエアロバイクを漕いで、彼の体と心は現代へと戻った。
純増じいさんのタイムスリップの冒険は終わりを告げ、彼は現代の生活に戻った。しかし彼の心と精神は時間を超えた旅から大きく変わり、彼は過去と未来の知識を活かして現代の問題に取り組んだ。
これは、81歳の純増じいさんがタイムスリップという奇妙な現象を経験し、その結果自分自身と周囲の世界に大きな影響を与える物語の終わりである。そのエアロバイクは、もう彼を時空を超える旅には連れて行かないかもしれないが、彼の心にはそれぞれの時代から得た経験と知識が今も鮮明に残っている。
