父が最後まで心残りだと話していたのが、僕が今回探しにきた植物のことだ。むかし、父がこの国を訪れたときに発見し、おそらく新種だったが、諸般の事情から持ち帰ることができなかったという。滅多に見つからない上に、開花の条件もはっきりしない。しかし、その花は実に美しいものであったと、父の研究メモには書き記されている。
絶対に見つけてやると意気込んできたのに、この有様である。成果もあげられず、挙句の果てに遭難。生きて帰ることすらできないかもしれない。
前編はこちら↓
花咲か加湿器 幻の花を求めて
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岩で日陰になっているところを見つけて、僕は倒れ込んだ。まだ数時間しか歩いていないのにクタクタだ。頭がぼうっとする。呼吸が苦しく、足も痛い。こんな調子で街まで辿り着けるとは到底思えない。もうダメだ。無理だ。
絶望の中、視界の隅に何かがあるのに気づいた。そちらに視線を向けると、岩陰に何か生えている。今は植物どころではないというのに、僕は吸い寄せられるように、その小さな植物の元へと這って行った。胸ポケットから父の研究メモを取り出し、今まで何度も開いたそのページと見比べる。
「この葉の形状、特徴的な蕾……そんなまさか。いや、間違いない、見つけた!」
それは、僕が、父が、長年探し求めていた植物に違いなかった。
「おめでとうございマス! すゴイ! すゴイ!」
加湿器はランプをチカチカさせて喜びを表現した。その加湿器に僕は手を伸ばし、加湿機能をONにする。
「警告警告! 湿度が20%を下回……どうしたんでスカ?」
「この植物はある条件下でしか花を咲かせない。父さんの研究メモを元に僕が立てた仮説の一つが湿度だ。一定以上の湿度を保てば、花が咲く可能性がある。そのために、今回の調査にお前を連れ来た。」
「でも、飲み水がなくなってしまいマス。」
「……正直、このまま歩いたとしても街まで辿り着ける可能性は極めて低い。それなら、僕は最後にこの花を見たい。父さんがずっと探していた花を、一目でいいから見てみたいんだ。付き合ってくれるか?」
僕が覚悟を決めてそう尋ねると、加湿器は少し黙ってから返事をした。
「もちろんです。AIは『あなたと・いっしょ』の略ですカラ。」
加湿器は植物の隣で蒸気を出し続けた。僕はそれをじっと見つめていた。数時間経ったころ、ほんの少し、蕾が開いてきた。
「もうすぐだ、もうすぐ……。」
「水が残りわずかデス。」
「頼む、もう少し。」
給水ランプの点滅と、蕾を交互に見ながら、僕は祈った。
「警告警告! 給水してくだサイ!」
給水ランプが赤く灯るのと、ほぼ同時だった。小さな花が、ゆっくりゆっくり開いたのである。その花びらは目が醒めるような朱色で、生命力に溢れていた。なんて美しい花だろう。
「ありがとう、お前のおかげだよ。これでもう思い残すことはない。」
僕が力無くそう呟いた、そのときだった。遠くの空に何か見える。
「なんだ?」
近づいてくるものに目を凝らす。音も聞こえてきた。まさか、信じられない。ヘリコプターだ! 僕は思わず立ち上がった。
「おーい! 助けてくれー!」
全身で大きく手を振ると、ヘリコプターはこちらに向かってくるようだった。ああ、助かった。助かったんだ。僕はその場にへたり込んだ。
「よかった……。でも、どうしてここがわかったんだろう。」
「私にはGPSが搭載されており、それは加湿機能がONの状態のみ作動しマス。ついでに救難信号も出しておきまシタ。」
「GPS!? 救難信号!? そういう大事なことは早く言えよ!」
「OFFにしたのはあなたデス。」
「あーもう! でも、いいよ。おかげで助かった。」
僕がポンと白いボディに手を置くと、加湿器がまた少し溜めてから言った。
「AIは『あしたも・いきる』の略ですカラ。」
帰国した僕は、すぐに父親の仏壇に手を合わせた。そして鉢に植え替えた、朱色の花を持ち上げた。
「父さん、ちゃんと見つけたよ。」
写真にそう伝えると、笑顔の父が頷いてくれたような気がした。じわりと目に涙が滲む。
すると、背後からプシュー!と音がした。
「すみませんが、湿っぽいのはやめてくだサイ。」
「おまえが言うなよ。」
僕が笑うと、加湿器は返事をする代わりに、またブシューと蒸気を出した。
<完>
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編集後記:
人にとっても、花にとっても、水は命。
そんな命の水を、すぐそばで提供してくれる加湿器。
お茶目なキャラクター性も可愛くて、こんな加湿器がいたら、ずっとずっと、一年中お部屋に置いておきたくなります。
お話にも花が咲きそうです^^
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