「このカニが内に秘めたる怒り、悲しみ、妬み嫉み。その荒ぶる復讐心こそが、不思議な力の源なのです。きっとあなたの役に立ちます。騙されたと思って家来にしてやってください。」
全く理解できない桃二郎であったが、正直、熊さえいれば戦力としては十分である。
「そこまで言われちゃあね。わかった、カニも連れて行きます。」
「よっ、桃二郎、日本一!」
こうして桃二郎は、熊、鶴、カニをレンタルした。
前編はこちら↓
レンタル家来と鬼退治 桃二郎、旅に出る
https://www.rentalism.jp/note/861/
しかし、再出発してすぐに桃二郎は不安になった。頼みの綱である熊に覇気がないのである。
「え、大丈夫? なんか元気ないね。これから鬼退治なんだけど、いけそう?」
桃二郎が聞くと、熊はのそのそ歩きながら「はあ」とため息をついた。
「鬼退治ですか。僕なんかに務まるんですかね。なんていうか、僕もう自信ないんですよ熊として。昔ね、人間の子どもに相撲で負けたことがありまして。なんかもうそれからは何もかもどうでもいいっていうか。どうせ子どもに負けた熊だし、みたいな感じで。まあ行きますけどね、鬼退治。とりあえず。家来ですし。」
さらに鶴はというと、ずっと襖に隠れている。背中に襖一枚を紐でくくって持ち歩いているのだ。桃二郎が覗き込みながら、「ねえ、なんで隠れてるの?」と聞けば、
「決して覗かないでください。」
この一点張りである。ちなみに、カニはずっとぶくぶくしている。
家来たちの有様に、桃二郎のテンションはダダ下がりであった。それでも引き返すわけにはいかない。無気力な熊と、覗くな鶴と、ただのカニと共に、桃二郎は鬼ヶ島に到着した。
「やあやあ我こそは、桃太郎の後継者たる勇士、桃二郎である! 鬼よ、お前の悪事もここまでだ。おとなしく降参しろい!」
桃二郎が半ばヤケクソでそう叫ぶと、薄暗い岩山の奥から、人影が近づいてきた。
「後継者? ははは、笑わせてくれるぜ。」
その顔を見て、桃二郎はハッとした。この男、見たことがある。どこで……そうだ、あれは確か、桃太郎博物館!
「あ、あなたは、まさか、桃太郎……!?」
「ご名答。確かに、俺は桃太郎だ。もうその名前は捨てたがな。」
「そんな、桃太郎が鬼だったなんて。僕の憧れの桃太郎が……。」
「憧れねえ……おまえが憧れているのは、俺じゃない。桃太郎というキャラクターさ。俺はあの村で、自分を失った。だから、ここにいる。邪魔をするなら消えてもらおう。行け、おまえたち!」
桃太郎が出した合図と共に、後ろから3匹が飛び出してきた。
「犬、猿、そしてキジ! まさか、あの鬼退治の家来たちがまだ生きていたなんて!」
「いや、さすがにもう死んだ。そいつらはOTOMOで借りてる。」
「だから貸し出し中だったのか。」
犬、猿、キジがこちらに向かってくる。熊は完全にビビって桃二郎の後ろに隠れているし、鶴は襖の裏に潜んで戦う気がまるでない。カニはぶくぶくしている。
猿が一番に駆け込んできて、キイイイと叫びながら襲いかかってくる。
やられる! そう思った瞬間、桃二郎の前にカニが立ちはだかった。その後ろ姿には、ただならぬ殺気があった。復讐の念に駆られた者の殺気。
突然、猿の顔面にどこからともなく栗が飛んできて弾けた。次に蜂が飛んできて刺しまくった。足元にはいつのまにか牛の糞があって猿は滑って転び、その上になぜか臼が落ちてきた。猿はふらつきながら退散した。
「なんだ、今のは……。カニが栗と蜂と糞と臼を召喚したのか?」
カニは勝ち誇った顔をして、これまたどこから出したのか不明な柿を食べはじめた。
よくわからないが一安心、したのも束の間、キジが桃二郎の目をめがけて飛んできた。しかし、桃二郎がかけていた牛乳瓶の底みたいなメガネがそれを防いだ。毎晩オンラインゲームに明け暮れ視力が低下したことが功を奏した。
犬も吠えながら走り込んできた。桃二郎は閃いた。
「これでも食らえ!」
桃二郎はチョコレートマフィンを犬に向かって投げた。すると、桃太郎が慌てて駆け寄ってきて犬を遠くにやった。
「なんてことをするんだ! 犬はチョコレートを食べちゃいけないんだぞ! 鬼か貴様!」
「桃太郎さん、あなたは優しい心を失ってはいない。やはり英雄、桃太郎だ。」
「う、うるさい! もう俺は飽き飽きしたんだ! 英雄だと祭り上げられ、キャラクター化されて、村の奴らに金儲けの道具にされて……もはや桃太郎じゃなくて金太郎だ!」
「金太郎?」
桃二郎の後ろで身を隠していた熊が、突然飛び出して行った。
「リベンジだあああ!」
「うわあ、なんだ、なんだ!」
熊は桃太郎の腰を掴み、思い切り投げ飛ばした。
「も、桃太郎さん、大丈夫ですか?」
桃二郎が駆け寄ると、桃太郎は地面に突っ伏して泣いていた。
「くそう……俺は、村を守りたかっただけなんだ。ただそれだけだったのに……。」
「桃太郎さん、一緒に帰りましょう。あの村に。」
いつの間にか鶴が横にいて、桃太郎に織ったばかりの美しい布を差し出した。その布で桃太郎は涙を拭い、「ありがとう」と言ってまた泣いた。
桃太郎と桃二郎は鬼ヶ島をあとにし、OTOMOに犬と猿とキジと熊と鶴とカニを返却し、一緒に村に帰った。
桃太郎は桃二郎の父親の会社で働くことになった。桃二郎も一緒にコネ入社した。二人は今日も日本中で桃太郎電鉄を走らせている。
めでたし、めでたし。
<完>
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編集後記:
桃太郎ももしかしたら、いろんな人たちに”桃太郎”という自分を”レンタル”されて疲れてしまっていたのかも…?
借りる側、借りられる方、みんなの気持ちを大切にしないといけないですね。
村を飛び出して、鬼ヶ島以外の場所に冒険に出る桃太郎と桃二郎の物語も、なんとも愉快痛快になりそうです^^
レンタルのロームはこちら
https://www.roumu-p.com/