空は蒼く、一陣の風が部屋の中を駆け巡った。作成者である杏子は、その日もまた、自分のファンタジー小説に没頭していた。机の上には散らばるページと、そこに綴られた彼女の夢と想像の産物がある。彼女の物語は、魔法が現実と交差し、英雄と悪漢が運命の舞台で対峙する世界を描いていた。
しかし、突然のことだった。部屋の隅に置かれた扇風機が、ふとした瞬間に強力な風を生み出し、杏子の作業台を一瞬で混乱に陥れた。紙のページが舞い上がり、空中で舞い踊る。彼女の目の前で、数週間分の努力が文字通り空に散らばってしまった。
杏子は呆然とした。しかし、その次の瞬間、不思議なことが起こり始めた。舞い上がったページが、まるで意志を持っているかのように、ゆっくりと空中で動き出した。それぞれのページが自らの居場所を見つけるかのように、元の位置へと戻り始める。彼女の目の前で、文字が再び紙の上に収まり、物語が元通りになっていくのだ。
この光景に、杏子はただただ驚愕した。彼女の小説には、魔法の力が宿るというテーマがあったが、まさか現実世界でそれを目の当たりにするとは夢にも思わなかった。ページが最後の一枚が元の場所に収まると、部屋は再び静寂を取り戻した。
「これは…どういうこと？」杏子は自問自答した。彼女はページを手に取り、文字がきちんと綴られていることを確認する。しかし、何かが違った。ページをよく見ると、いくつかの文が微妙に変わっていた。変わった文は、物語に新たな深みを加え、キャラクターたちの運命をより複雑に絡み合わせるものだった。
この現象に心を動かされた杏子は、新たなインスピレーションを受け取った。彼女は、この不思議な出来事を物語に取り入れることを決意する。風がもたらした変化は、彼女の創造性をさらに刺激し、物語に予期せぬ転回をもたらした。
以降、杏子はその日の出来事を忘れることはなかった。扇風機から生まれた一陣の風が、ただの偶然ではなく、彼女の物語が真に魔法の世界へと一歩を踏み出した瞬間であると信じるようになった。そして彼女は、自分の作品に込められた魔法が、読者の心にも同じように不思議な影響を与えることを願ってやまなかった。
物語は、杏子が再びペンを取り、新たなページをめくるところで終わる。彼女の前には無限の可能性が広がっていた。彼女の物語には、現実世界の枠を超えた魔法が存在している。そして、その魔法は彼女自身の心の中にも宿っているのだった。
